1.脇田様の就農された動機と就農されてからの経過
東京都内で会社員をしていた。会社員時代から援農ボランティア等を通じて農業に親しみ、努力が目に見えて返ってくる仕事として農業を志すことにした。早期退職制度を活用し会社員を辞め、県立農業大学の新規就農者研修/農家研修を経て、2012年に新規参入を果たした。就農後は、露地栽培野菜で特別栽培農産物の認証を取得するなど、有機/多品目栽培を中心としてきた。最近は大きな気象変動により露地栽培の不安定さが助長されてきており、経営の柱として施設栽培(大玉トマト)の比率を増やす準備をしている。
2.脇田ファーム様の主な生産品目と販売先等
現在は露地栽培を主体として、枝豆、ミニトマト、サツマイモ、パプリカなど年間20品目ほどの野菜を作っている。できた野菜はJA農産物直売所、スーパーインショップ、仲買業者、自家直売など、多様な販路に出荷している。これから温室でできるトマトは、自家直売所で販売する計画である。
3.トマト栽培方法(ANSポット栽培)の紹介
(株)関東農産で開発された低段密植栽培方式で大玉トマトを周年生産する。ANS培地という特別な培土を園芸用の1リットルロングポットに詰め、ポット内の水分量を基準とした点滴潅水で栽培する。培土量の制約により収穫は5-6段で終わらせるが、10アールあたり4,500〜6,000株を栽培できる。ANS培地のおかげで根は極めて健全に生育する為、トマトはストレスなく生育する。
この栽培方法の大きなメリットのひとつとして「廃液がでない」ことがある。根のまわりに水が流れていることが重要だという研究者もいるが、ANS培地の優れた特性により水が流れなくても根の生育に悪い影響を及ぼさない。トマトの株をポットから抜いて根を観察すれば、根の健全性が容易にわかる。廃液が出ない為、廃液路と廃液処理設備が不要である。
4.ThinkingFarmを導入された経緯
温室内のトマト栽培面積を大幅に拡張する前に、600株ほどで試験栽培を行っていた。
この試験栽培においては、天窓や側窓、各種カーテン、暖房機を手動で動かし、トマトの生育適温の範囲に収まるように努力をしてみた。トマトは栽培システムに助けられ普通に収穫できたが、可販収量は一般的なデータよりずっと少なかった。収量を増やすためには、適切な栽培管理はもちろんのこと、光合成速度の最適化が必要だと考えていた。しかし、何をすれば光合成速度が最適化されるかはさっぱりわからなかったし、光合成が行われない夜間の管理についても明確な考えを持っていなかった。
ある時は飽差を適正範囲に保とうとしたが、現環境では困難を極めた。ある程度の投資を行い飽差を適正値に制御できるとしても、果たして飽差を目標値として温室制御をすべきなのか確信が持てなかった。飽差だけではなく、気温、日射量、二酸化炭素など刻々と変化する他の要因もトマトの生育に大きな影響を与えているため、飽差を第一義に制御することは誤りだと考えていた。
すなわち、温室でのトマト栽培において「何を」「どんな目標値に向かって」制御すべきかを理解できておらず、このまま栽培規模を拡張することに対して大きな不安を抱えていた。
そんな時、農研機構主催の研修会で、ダブルM 社の狩野先生の講演を聞いた。この講演で、ずっと疑問に思っていたことに対する答えがわかった気がした。DM-ONEを導入したいと思ったものの、温室設備の改修も含めて高額な費用がかかるため一旦は諦めた。その後もダブルM社のウェブサイトを定期的にみていたところ、AGROINFO社からDM-ONEの環境モニタリング版が製品化されたことを知った。純光合成最適温度というものが算出されることもわかり、自分の温室制御の目標として「純光合成量の最大化」を定めることにした。これを手助けする有用な機械としてThinkingFarmを購入することにした。
5.ThinkingFarmを使ってみて感じた他社製品に比較してのメリット
設置方法、操作方法、各種機能等
(1)純光合成量の最大化
光合成の主要な要素は、水、二酸化炭素、光、そして温度(気温)があげられる。水や温度は比較的制御しやすい要素だが、光は減光しか制御できず、また二酸化炭素も開放空間では自由に制御できない。また、温度を上げすぎると植物の呼吸消耗が大きくなり純光合成量が低下してしまう。このような制約の中で、純光合成量を最大化するためには何をすればよいのだろうか。この答えはThinkingFarmから導き出される。
◇事例1
ある日の朝7時頃、温室内の気温は12℃、二酸化炭素濃度は600PPM、日射量は100W/㎡になっていた。一方、純光合成最適温度は20℃を表示している。この表示からわかる事は、温室内の気温をあと8℃上昇させておけば、純光合成量が最大化されたことだ。暖房機の4段サーモを使えば朝7時頃に温室内温度を20℃近くに合わせることも可能であり、トマト果実の結露防止に加えて、純光合成量の最大化にも寄与することが明確になった。更に、今まで適当に決めていた4段サーモ各段の設定温度を純光合成最適温度から決定することができ、無駄な暖房設定をする必要もなくなる。
◇事例2
厳冬期の温室温度管理は天窓の自動開閉により制御している。(側窓は巻取り式手動制御のため何度も動かせない。)しかし、日射量の高い12時から14時頃は天窓の自動制御可能範囲を超えてしまうのか、温室内温度は28℃以上になってしまうことがある。その時、純光合成最適温度が26℃を示していたとしたら、その環境下で純光合成量は最大化されていない。そんなときは、天窓を手動で全開することで更に温室内温度を下げれば、純光合成量を最大化させることができる。
温室環境をただモニタリングするだけでは、こんなことはわからない。一般的な環境モニタリング機器は現状を表示しているだけで、温室内の制御目標は農業者の知識と経験により変わってしまう。植物生理学に基づく制御目標が明確に提示される環境モニタリング機器はThinkingFarmしかない。
(2)サーバーソフトウェア
ThinkingFarmの機器は、UECS-PIとほぼ同じものだと感じる。しかし、植物生理の計算式や表示機能を担うサーバーソフトウェアは大変良くできている。業務用のシステムで実装される死活監視やリモートソフトウェア更新の機能が組み込まれており、安定的な運用が期待できる。また、データを表示するスマートホンとサーバー間の通信容量は極めて小さく、1日20回程度の参照では1日あたり10MB程度しか使わない。
(3)価格
初期費用には継続的な通信費が含まれており、継続費用を支払う必要がない。お金がかかるのはスマートホンからインターネット上にあるThinkingFarmのデータを見るための通信費だけである。しかしそれも上述の通り、それほど大きなデータ通信を必要としない。初期費用と継続費用を総合的に考えれば、UECS-PI並み、またはそれ以上に安い。これほどの機能を有する機器をこの価格で買うことができるのは驚愕に値する。コストを下げるため、UECS-PIで環境モニタリング機器を自作することも考えたが、通信費や運用の手間を考えたら、ThinkingFarmを買ったほうが安い。もちろん、UECS-PIに植物生理の論理式を組み込むことはできないであろう。
6.ThinkingFarmを使って今後やってみたいこと
ThinkingFarmで表示されているデータを深く理解し、温室制御にかかわる知識を増やすことで自分の強みとしたい。最終的にはこの知識を活用して、収量アップと品質向上を図りたい。
たとえば、春から夏にかけて日射量が増大する時期に、遮光カーテンを閉じて温室内温度を下げるべきなのか、遮光カーテンを使わず日射量を維持したほうがよいのか、ThinkingFarmの表示データを見ながら判断したい。また、手動制御でどこまで理想に近づけるのかも見極めたい。
7.ThinkingFarmに追加で実装してほしい機能(あれば)
ない。まだ使い始めたばかりで、実装されている機能ですら理解できていない。ThinkingFarmともっと仲良くなれば、要望も出てくると思う。
脇田ファーム 脇田智宏